日本フィルハーモニー交響楽団

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vol . 8 山田 和樹[日本フィル正指揮者]ーラフマニノフを語るー

初登場の第10回相模原定期演奏会では、満場の客席が熱気にあふれ、山田マエストロとともに音楽を心から楽しむひとときとなりました。2度目の登場となる第12回のプログラムは、サン=サーンスとラフマニノフ。この二つの作品について、山田マエストロにお伺いしました。

「豪快なロシアン・サウンドを聴けるという点では、日本フィルは在京オーケストラ随一と言っても良いと思います。」

――今年1月には、相模原定期に初登場でした。相模原の印象をご教示ください。

相模原独特のお客様のあたたかさを感じました。自分の故郷が秦野市ですし、僕にとっては神奈川県というものがあたたかさに結びつきます。広いホールというのは割と散漫というか、冷たくなりやすくもあります。それでも温かさを感じるというのは、相模原定期が10回続いてきたという、そのような道すじや積み重ねがあるからだと思います。きっとこれまでの回を全部聴いて下さっている方もいるでしょうし、お客様も一緒に相模原定期を育てているような印象を受けました。
それに、前回はバーンスタインの《キャンディード組曲》やガーシュウィンの《ラプソディー・イン・ブルー》など華やかな作品を演奏しましたので、会場もだいぶ盛り上がりましたね。その熱気が僕のところまでダイレクトに伝わってきたので、とても楽しかったし、嬉しかったです。

――今年度の相模原定期は、5月にラザレフによるチャイコフスキー4番が演奏され、ロシアン・イヤーになっています。日本フィルは、東京定期でもシリーズを持つなど積極的にロシアン・プログラムを演奏しているようにも感じ取れますが、マエストロの印象はいかがでしょうか。また、日本フィルによるロシアン・プログラムの魅力をご教示ください。

ひと言で言うと、「豪快」です。実は今、割と均整がとれたサウンドのオーケストラが増えており、豪快なサウンドを出すオーケストラが少なくなっています。そのような中で、豪快なロシアン・サウンドを聴けるという点では、日本フィルは在京オーケストラ随一と言っても良いと思います。日本フィルは、ラザレフさんの薫陶を受けたオーケストラですし。

――山田マエストロとラフマニノフ《交響曲第2番》との出会い

ラフマニノフの《交響曲第2番》は、僕にとって青春の曲です。指揮者になりたいと考える前のことですが、あるTVドラマのテーマ音楽になっていました。そのドラマを観て、ラフマニノフという作曲家の名前や《第2番》の第3楽章には素敵なメロディーがあることも初めて知り、大好きな作品になりました。
また、BBC交響楽団を指揮してイギリス・デビューをした作品です。2009年にブザンソン国際指揮者コンクールで優勝した際に、ご褒美としてBBC交響楽団を指揮することになったのですが、ラフマニノフの《交響曲第2番》が良いなと思い、選びました。
なので、とても思い入れの強い作品ですし、相模原は青春の地ですので、その全てがリンクする作品でもあります。

――ラフマニノフ《交響曲第2番》の聴きどころをご教示ください。

魅力は、とにかくメロディーが美しいところです。しかし、ラフマニノフの人生はそんなに幸せいっぱいではなく、祖国からアメリカへ亡命をして、その後作曲活動は低迷してしまいました。そのような人生の暗示を第1楽章冒頭に感じます。まるで、この世に宿命を背負って生まれた子が、さすらいの旅をするようです。
第2楽章は、宇宙を颯爽と駆け抜けるかのような銀河的なイメージがあります。ロシア音楽は、必ず人間の深い情や愛のようなものが表現されているのですが、第3楽章はまさにそのものです。ラフマニノフは、なぜこのように素敵な音楽が書けたのでしょう。まるで奇跡です。また僕には『一人は皆のために、皆は一人のために』といったメッセージも聴こえます。クラリネットが静かに奏でるメロディーを皆が引き立たせようとして、だんだんと手を取り合うように楽器が増えていきます。
第4楽章は、フェスティヴァル的。しかし、第3楽章もそうであるように、ただ美しいだけではなくどこか感傷的でもあります。これは、寒い国独特のことかもしれません。そして、ロシアの音楽は、凍てつく大地に真っ赤な血を吐くように、ほとばしる程に中身は熱い。このように、寒い中に熱い心があるということがロシア音楽の特徴であり、同時にラフマニノフの祖国への想いを感じるところでもあります。

(後編につづく)

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第10回相模原定期演奏会より(2018年1月14日開催)