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【公 演】森谷真理(ソプラノ)特別インタビュー

2023.04.28

〔特別インタビュー〕森谷真理(ソプラノ)
声の表現の魅力を伝えたい

超高音を駆使したコロラトゥーラから豊かな中低音域を持つ森谷真理さん。ドラマティック・コロラトゥーラの声を活かしたその幅広いレパートリーは、他に類を見ないほどです。
今回はオペラと歌曲によるプログラムですが、「オペラは対話、歌曲は客席の聴衆に向けての語り。語る相手が異なります」とインタビュー内で語られた言葉も印象的でした。シューベルトの有名な歌曲、そして珠玉のオペラアリアを集めた贅沢なリサイタルを前に、特別インタビューをお読みください。

――森谷さんの魅力の一つには、聴衆もストーリーに没入してしまうような演技力もあると思います。役作りの過程などを教えてください。

役作りというよりは、その状況で、自分の役がどのような気持ちになっているかを発見するような感覚です。私は気持ちが伴わない動きをすることはできないので、どちらかと言えば不器用な方だと思いますが、例えば、演出家に「右に動いて」と言われてその通りにする場合も、動く理由を自分の中で探したりします。手の振り一つとっても、理由もなく動くことができないのです。

――動きだけでない何かもあるように感じます。

舞台上にはいますが、客席のお客様を忘れることはありませんね。

――他者の視点を意識しているということでしょうか?

このように自分を観て欲しいという思いはなく、舞台上にいても聴衆の皆さんの存在を常に意識しています。
役を演じている時は自分ではありますが森谷真理ではなく、しかし、自分自身が全く消えて私ではない誰かが舞台上に存在するわけでもなく、これまでの自分の経験とリンクする瞬間、瞬間が現れているように思います。それらが無意識的な振付にならないようには意識しています。

――森谷さんはアメリカとヨーロッパを拠点とされていました。アメリカで活動する器楽奏者の方々は、アメリカのホールはデッドなため音作りとして「割と骨太の音を弾けないとアメリカでコンサート活動をしていくのは難しい」と仰ることが多いですが、声楽においても劇場によって発声方法が異なるのでしょうか?

アメリカとオーストリアを拠点としていました。
発声法については基本的には変わりませんが、ピアノ伴奏か、オーケストラとの共演か、また各ホールの音響によって適した声の出し方を合わせることはあります。

――様々な国のオペラへのご出演経験がおありですが、アメリカとヨーロッパ、あるいは国ごとにオペラの制作方法が異なるのでしょうか?エピソードなどをお聞かせください。

アメリカはスタジオーネ・システム(同じ演目を繰り返し上演する公演形態)のため稽古期間は比較的短めですが、ドイツなどはレパートリー・システム(劇場が複数の演目を日替わりや週替わりで上演する公演形態)なので、制作方法は各劇場によって異なりますし、また新演出か再演かによっても違います。

――オペラ・アリア・リサイタルの楽しみ方や初めてオペラを鑑賞する方に向けて、事前の準備や鑑賞のポイントを教えてください。

今はインターネット等でもあらすじや歌詞を読むことができるので、もし歌詞の内容を事前にある程度読んできていただければ、舞台を観ながら聴きやすいかもしれません。オペラの場合は、字幕付き公演もありますし。
それと、器楽作品をお好きな方も多いと思います。器楽作品とオペラ・歌曲作品の異なる点は言葉の有無ですが、最終的にはいずれも音の芸術なので、言葉にとらわれず音楽として楽しんでいただければ嬉しいです。

――今回のプログラムでは様々な女性たちを取り上げてくださいますが、ご自身と似ている部分がある役柄はありますか?

どの役柄にもちょっとずつ自分に似ているところがあります。

シリーズ杜の響きvol.48 森谷真理ソプラノ・リサイタル
2023年6月4日(日)14:00開演

【プログラム】
シューベルト:夜と夢 作品43の2 D827
       ます 作品32 D550
       野ばら 作品3の3 D257
       糸を紡ぐグレートヒェン 作品2 D118
       ガニュメート 作品19の3 D544
       アヴェ・マリア 作品52の6 D839
ヴェルディ:オペラ《オテロ》より〈柳の歌〜アヴェ・マリア〉
ベッリーニ:オペラ《ノルマ》より〈清らかな女神よ〉
プッチーニ:オペラ《ラ・ボエーム》より〈私が街を歩けば〉(ムゼッタのワルツ)
シャルパンティエ:オペラ《ルイーズ》より〈その日から〉
ドヴォルザーク:オペラ《ルサルカ》より〈月に寄せる歌〉
※曲目等は、都合により変更になる場合がございます。

写真=藤本史昭 取材協力=ジャパン・アーツ 写真提供=トッパンホール