vol . 2 企画・制作編
オーケストラの演奏会は、どのような方が、どのように作っているのでしょうか。
日本フィルの企画・制作部 部長 益滿行裕(ますみつ ゆきひろ)さんに
お話を伺ってきました。
◎オーケストラの企画・制作について
――日本フィルの演奏会を企画する方々は、何人ぐらいいらっしゃるのでしょうか。
企画・制作の人数は、3人です。
大まかですが3人の担当する演奏会は、シリーズ毎に分けることができます。1つはサントリーホールの東京定期、これを私が担当しています。もう1つは、横浜、さいたま、そして相模原という定期演奏会という名前が付くもの、また九州ツアー、夏休みコンサート、第九などの大きな演奏会を3人で分担しながら企画しています。
中でも、日本フィルが主催している東京と横浜の定期、夏休みコンサート、第九は、アーティストの人選なども含め、全てにおいて私たち自身が企画しています。また、共催公演のようにホールの意向も伺いながら企画しているものもあります。
――3人の方のキャラクターもあるかと思いますが、どのような感じでしょうか。
私の場合、東京定期のようなマニアックなものは得意ですが、夏休みコンサートのように子ども向けのものは苦手なので、内容についてはあまり口出ししません(笑)。
――それぞれのキャラクターを活かしながら演奏会も企画されているのですね。ちなみに、益満さんのお好きな作曲家などありますか。
非常にマニアックですが、武満徹やブルックナーが好きです。
東京定期のラインナップなどを見て頂くと、それが一部反映されています。
いつか相模原定期でもやりたいですね。
――年間の公演数は、どの程度なのでしょうか。
主催や共催、夏休みコンサートのように1日2回公演なども含めて、約150公演です。
また、日本フィルは室内楽コンサートも催しており、こちらも年間150公演ほどになります。
――いろいろな企画が連動しながら、演奏会が行われているのですね。
そうですね。年末年始や夏休み以外は、フル稼働といっても過言でありません。
◎どのように企画をしているか
――では、具体的にどのように演奏会を企画制作していらっしゃるのでしょうか。
1番わかりやすいのは、東京定期演奏会かもしれません。
東京定期は、年10回ありますが、そのうち3回を首席指揮者のラザレフ氏、2回を首席客演指揮者のインキネン氏、1回を桂冠指揮者の小林研一郎氏、1回を正指揮者の山田和樹氏、また慣例として、以前正指揮者を務めて頂いた広上淳一氏にも必ず1回ご登場頂いています。そして、残りのお二人は客演としてお招きしています。
このお二人については、今まで共演の無い方をお招きすることもあれば、これまで長く共演を重ねている方をお招きすることもあります。
今回の相模原定期演奏会はいずれも後者にあたり、10月は日本フィルと30年来の絆で結ばれた桂冠指揮者の小林研一郎氏が、2月はとても信頼が厚い大友直人氏をお招きしています。
ラザレフ氏の場合、契約期間の中で、どのような作曲家を特集するのかが契約時に決まっており、ある程度プランが固まっています。インキネン氏も、ご自身で取り上げたいとお考えのものを来日した際に相談します。残りの演奏会に関しては、このお二人のプログラムにかぶらないものを選ぶようにしています。
このように契約されているのは東京定期だけですので、横浜定期などになると、もう少し幅をもたせた内容になっており、指揮者陣もいろいろな方をお招きしています。また、横浜定期では、アジアで活躍する、将来有望な指揮者やソリストを呼ぼうという「輝け!アジアの星」という企画なども行っています。
――「輝け!アジアの星」の人選などは、どなたが行っているのですか。
団としての意向をまとめながら、私たち企画の人間が行っています。先日は、2011年に若手指揮者の登竜門として知られるブザンソン国際指揮者コンクールにおいて優勝した垣内悠希氏をお招きしました。ちなみに、第1回は、2012年に日本フィルの正指揮者に就任した山田和樹氏です。
実は、日本フィルでは若い指揮者にデビューのきっかけを与えることを、昔からよくやってきました。井上道義氏、高関 健氏、広上淳一氏、藤岡幸夫氏などが、日本フィルの定期演奏会を指揮して「定期」デビューをしているんですよ。
――若い指揮者にオーケストラを任せるのは決意がいることだと推測しますが、次もまたお願いしたいと思うようなきっかけは、どのようなことなのでしょうか。
「輝け!アジアの星」の枠ではありませんが、インキネン氏(1980年生まれ、日本フィル首席客演指揮者)は1度目の共演の際、すぐに首席客演指揮者のポストを提案しました。彼のように、ポストを取るような指揮者は、1回目の共演で決まってしまうことが多いように思います。これは、他のオーケストラを見ていても、同じように感じます。
――それには、オーケストラとの相性もあるのでしょうか。
そうですね、もちろんです。指揮者とオーケストラの「幸せな出会い」というものがあるんですよね。
――では、企画をする上で留意していること、あるいは苦労することはありますか。
まずは、お客様がコンサートホールへ聴きに来て頂くことを第一と考えています。ただし、毎回、名曲ばかり演奏していてもオーケストラにとっても良くないですし、その地域にとっても良いことだとは思いません。なぜなら、オーケストラの作品はたくさんあるので、お客様にはより多くの作品に触れて、クラシック音楽の奥深さを知って頂きたいからです。しかし、まずはコンサートホールに来て頂くことが大事なことですよね。今回の相模原定期もそうですが、有名な作品を入れつつ、将来的には幅のあるプログラミングができれば良いなと考えています。そして、気付いたら、もっと深いところに踏み込めるような内容にしていきたいです。
――企画制作の方は、演奏会の時にどのようなお仕事をされているのでしょうか。
裏方といっても2つの仕事があります。1つは、ホールでお客様の対応をすること。もう1つは、ステージ袖で出演者の対応することで、どちらかというと、私たちは後者に当てはまります。
基本的には、先に会場に入って指揮者をお迎えし、打合せをし、本番を迎えます。本番の際は、音楽事務所のマネージャーさんがいらっしゃらない場合、水を差し上げるなど出演者のケアを舞台袖で行っています。また、次回の演奏会の打合せも行っており、これも重要な仕事です。
そして、ロビーにいるスタッフと、開場や本番が始まる時間、遅れていらしたお客様がホールに入れるタイミングなどを連動しながら図っています。
◎今後の企画について
――今後、日本フィルでチャレンジしたい企画はどのようなものでしょうか。
1つは、日本フィル・シリーズの再演企画です。これは、すでに実現されており、2012年7月13・14日に下野竜也氏の指揮で行いました。この日本フィル・シリーズには、雅楽とオーケストラの共演によるものなど面白い作品がたくさんあるので、今後も皆さんにご紹介できれば良いなと考えています。
また、今後、ラザレフ氏の指揮でロシアの作曲家、スクリャービン(1872-1915)やショスタコーヴィチ(1906-75)の特集をするので、今から楽しみにしています。
◎オーケストラの魅力とは
ある種の陶酔感でしょうか。ホールという限られた空間の中で100人ぐらいの人間が放つ音のシャワーみたいなものを浴びるというか。やはり、生音に勝るものはないと思います。
クラシックの演奏会は、敷居が高いからと尻ごみをされる方もいらっしゃいますが、ソロよりオーケストラの演奏会の方が緊張せず、気楽にお聴き頂けると思います。オーケストラの場合、音が空気のように降りかかってきますから、とても気持ち良いんですよ。
ですから、ぜひ一度演奏会にいらして下さい。
※日本フィル・シリーズについて
「日本フィル・シリーズ」は、日本フィル創立期より始められた邦人作品の委嘱シリーズで、1958年の第1作(矢代秋雄「交響曲」)以来、演奏会での初演を前提とした日本の音楽史上でも例のない委嘱制度として現在まで続けられている。
このシリーズは、当時常任指揮者であった故・渡邉曉雄氏の発案をもととして、作曲家は日本の代表的な大家から新人に至るまでの幅広い人材の中から選ばれ、その作品の傾向も古典的なものから前衛まで、多岐にわたるバラエティに富んだものとなっている。またこれによって初演された曲の中には、すでに“古典”と呼ぶにふさわしいポピュラリティを獲得したものも少なくなく、日本フィル以外の内外オーケストラによって再演されたり、またさまざまな賞を獲得するなど枚挙にいとまがない。