vol . 6 山田 和樹[日本フィル正指揮者]【前編】
――マエストロは、相模原市近隣の秦野市のご出身ですが、グリーンホールにお越し頂いた
ことはありますか。もし、ありましたら思い出などをご教示下さい。
外来のものなど大きな催しはグリーンホールまで行かないと聴けなかったので、「エフゲニー・キーシン ピアノ・リサイタル」(1994年11月開催)をはじめ、いくつかのコンサートに伺いました。チケットを買う時はいつも相模大野まで出向き、グリーンホールの窓口で買っていました。
また、高校3年の時の吹奏楽コンクールで、学生指揮者としてグリーンホールの舞台に立ちました。3年生は7月にコンクールに出場してから引退なので、青春の思い出がつまったホールでもあります。吹奏楽コンクールの最後の一音もグリーンホールの響きとともにいまだに覚えています。
響きが素晴らしいホールですよね。
――今回のメインプログラムは横浜定期と異なり《ボレロ》です。
マエストロのお考えになる相模原定期の聴きどころをご教示下さい。
全編を通して共通しているのは“ジャズ”の世界です。
もちろん《ラプソディー・イン・ブルー》はジャズの最たるものです。そして、1920~30年代頃、ヨーロッパのものであるクラシック音楽界でもアメリカから入ってきたジャズの影響が強く見られるようになり、ラヴェル、ミヨー、プーランクなどのさまざまな作曲家がジャズの要素を採り入れた作品を書きました。ですので、“ジャズ”というものがなかったら、ラヴェルもこのような作品を遺していなかったかもしれないのです。《ボレロ》は、スペインのリズムや旋律を採り入れた作品でもありますが、和音の色彩的なところなど、やはりジャズの影響を受けていると思います。
また、ガーシュウィンはとてもラヴェルを尊敬しており、彼がラヴェルに教えを請うた時に「君は一流のガーシュウィンなのだから、二流のラヴェルになる必要はない」と言われたという逸話もあるように、ガーシュウィンとラヴェルには深いつながりがあり、手前味噌ながらこの二人の組み合わせによるプログラムは、とてもお洒落なのではないでしょうか。
さらに、後半のプログラムには、《高雅で感傷的なワルツ》がありますね。“ワルツ”はヨーロッパの貴族社会から発展したものですが、曲のタイトルにもあるような元々ヨーロッパにあった優雅さとジャズの要素が織りなす面白さを楽しんで頂きたいです。あまり演奏される機会が少ない作品ですが、全8曲のさまざまなワルツのかたちを皆さんにお聞かせできれば。
プログラムの最後に演奏する《ボレロ》は、盛り上がること間違いなしの作品なので、舞台上だけでなく客席の皆さんと一緒に音楽を作れれば良いなと思います。
――今回ソリストにお迎えする小曽根真さんとの共演ついては、いかがでしょうか。
小曽根さんと初めてご一緒したのは、3年前。その時に演奏したのは、ラフマニノフの《パガニーニの主題による狂詩曲》でしたが、それで意気投合して、二度目も同じ曲で共演し、三度目の共演となる今回は小曽根さんの本流であるジャズの世界をご一緒できますので、とても楽しみです。《ラプソディー・イン・ブルー》を弾くピアニストはクラシック音楽の世界にもたくさんいらっしゃいますが、実はとても特殊な作品でもあるので、以前日本フィルで採り上げた際もわざわざ海外からピアニストをお招きしました。小曽根さんはとてもスペシャルなアーティストなので、まさにピッタリの人選です。
――バーンスタインの作品も採り上げますね。
ジャズをつらぬくところで、プログラム冒頭のバーンスタインにつながります。ちょうど、2018年は生誕100年にもあたります。
通常1月のニュー・イヤー・コンサートではウィンナ・ワルツなどが含まれたプログラムになることが多いのですが、今回は少し異なる趣で「アメリカ」と「フランス」で迎える新年も良いのではないかと思います。