日本フィルハーモニー交響楽団

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vol . 3 ステージマネージャー編


オーケストラの演奏会に行くと、椅子や譜面台が美しく並んでいますね。

これらを含めたお仕事をされているのが、ステージマネージャーさんです。

vol.3 は、演奏会の運営を支え、バッグステージを取り仕切る、

ステージマネージャーの小林俊夫(こばやし としお)さんにお話を伺いました。


 

―― 一言でお仕事の内容をお話しするのは難しいと思いますが、
ステージマネージャー(通称:ステマネ)は、
どのようなお仕事をされているのでしょうか?

それを説明するのは、本当に難しいですね(笑)。 主な仕事としては、次の内容が挙げられます。

1)演奏会を行う会館との打合せ

2)練習のための楽器の準備

3)練習時や本番のステージのセッティング

4)特殊楽器の手配

5)舞台上の配置の確認

その他は雑用全般ですね。例えば、エキストラの方がホールに入るための入館証を作ったりもします。

――1)会館との打合せとは、どのようなことをするのでしょうか?

①入館時間の確認・・・何時からホールに入って良いかを、まず確認します。次に、楽器などはトラックで運搬しているので、トラックが何時に着くかを連絡します。そして、荷降ろしをするのに搬入口を使用しますが、相模女子大学グリーンホールの大ホールのように専用の搬入口があるホールばかりではなく、会館によっては兼用している場合もあるので、その際は搬入口を使用する時間も調整します。

②舞台設備の予約・・・椅子、譜面台、平台、ひな壇、指揮台、指揮者譜面台、いわゆる舞台設備と呼ばれるものの、おおよその数を予め知らせておきます。

具体的には、椅子といっても、楽員用の普通の椅子、チェロ用の椅子、コントラバス用の椅子など様々な種類があるので、それらの数を指定します。

また、ピアノやチェンバロ、パイプオルガンを使用する際には、調律時間なども知らせます。

その他には、照明さんにも何時には演奏会用の照明にしてもらうなど、音響さんにはマイクの使用の有無、録音や録画があるかなども指示しています。

――2)楽器の準備とは、どのようなことをするのでしょうか?

演奏会のプログラムが決まり次第、ライブラリアンから各曲の編成を聞き、編成に沿って楽器の手配をします。

――よく、オーケストラの方から舞台図を頂いたりするのですが、それを作成するのもステマネさんのお仕事ですか?

そうですが、全ての楽曲に対し作成しているわけではありません。ある程度有名な作品だと、長年の経験がありますから作りません。ただし、とても小さなホールで演奏会がある場合など、この編成が、実際にステージ上へ乗るかを計算するために作りますね。

――3)小林さんのお仕事のご様子を拝見すると、全く迷いがなく、椅子や譜面台を配置されています。この場合、オーケストラの配置が小林さんの頭の中で決まっているのでしょうか?

そうですね。もちろん慣れもありますが、人が歩く幅は決まってますよね?例えばヴァイオリンだったら、2歩ぐらい歩ける幅に譜面台を置いています。

――舞台図というのは、いわゆるステージ上でのオーケストラ配置の縮図でもありますが、作成はしたけど実際とは違っていた、などのご経験はありますか?

もちろんです。ほとんどが、現場合わせだと思っていいですね。また、楽器の配置によって指揮者や楽員同士が見えづらいことや、聴こえる音も変わってきますので、指示によって変えることもあります。

――雑用とおっしゃっておいででしたが、どのようなことがあるのでしょうか?

すごく難しい質問ですね(笑)。一番大変なことは、冷暖房の管理でしょうか。舞台はとても広いですし、照明が当たっている所とそうでない所があります。そうすると、暑い所と寒い所ができてしまいます。また、男性は燕尾服やタキシード、女性は薄でのドレスを着ますが、この衣服による温度差もありますから、とても大変です。

――その場合、どのようにご判断されているのですか?

基準にしている楽器があり、それはハープとティンパニです。ハープはガット弦、ティンパニの鼓面は本革を使用しているので、とても温度に敏感です。ですので、この2つの楽器に悪い影響を与えるような温度差を作らないように管理しています。

――その他には、ありますか?

ヴァイオリンのように自分の楽器を持ち歩ける場合もありますが、ピアノのようにそうでない楽器があります。もちろん調律師さんがいますが、私自身も気を配るようにしています。ピアノ協奏曲を演奏するためには、ピアノが良い状態であることが大事ですから、一番良い音が鳴るような位置を探ったりします。

――4)特殊楽器の手配とは、どのようなことですか?

日本フィルの楽器庫にあるもの、別の倉庫に置いてあるものの中から、必要な楽器を持ってきます。その他、2台目のハープ、バス・フルート、コントラバス・クラリネットなど特殊な楽器を使用し、日本フィルでは持っていないものがあればレンタル楽器屋さんから借りたりもします。また、本当に特殊な楽器のため、日本に何台しかなく他のオーケストラが持っていれば、お願いして貸してもらうこともあります。

もちろん私だけでなく、実際の演奏者が手配することもあるのですが、その運搬をするのは私の仕事です。

――5)配置の確認とは、どのようなことをするのでしょうか?

練習前には、指揮者と配置を確認します。よく行うのは、演奏会の際に、次回の演奏会はこのようなかたちで良いですか?といった打合せをします。

――日本フィルのステージ・スタッフさんは、何人いらっしゃるのでしょうか?

ステマネは、私も含めて3人います。その他のスタッフ2~3人がおり、一つの演奏会や練習に全部で6人ほど付きます。このスタッフの手配も、私たち3人が分担して行っています。

――ステマネとして心がけていらっしゃることは、どのようなことですか?

人間ですので、指揮者や団員にもクセがありますよね。何となくですが、譜面台の高さや椅子の位置など、演奏しづらそうだなと感じた場合は、それらを微調整したりします。

――団員や指揮者を送り出す時のお気持ちは、どのようなものでしょうか?また、特別な思いを抱かれた演奏会は、ありますか?

毎回、全く違う気持ちになります。曲によって、指揮者によってなど、その時によって思い入れは異なりますから。

――今も忘れられない演奏会はありますか?

現在も続いている夏休みコンサートを、以前はある団員が演出していたのですが、若い団員たちに「今日のチューニングは、ラの音しか出さないこと」と言ったことがありました。

実際にその通りにしたところ、演奏会の間は、子どもたちの集中力がびっくりするほど違いました。どうしてもいろんな音を出してしまいがちなチューニングですが、演奏会の内容だけでなく、その前段階のチューニングからお客さんの集中力を高めていったのですね。

子どもの反応は素直だとよく言いますが、このような反応をしてもらって、すごく嬉しかったですね。こういう時は、我々オーケストラがお客さんに演奏をさせられているんです。こういう演奏会が、いつもできると良いですね。

そして、こういった嬉しいことの積み重ねで、今も仕事を続けていられると思います。

 

①日本フィルのトラックです。いろいろ積んでありますね。
伺ったときは、丁度荷物を降ろしていました。
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②一方、ステージ上は、まだ始まったばかり。
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③小林さん、すごい速さでステージを作っていきます。
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④あっという間に完成。所要時間は1時間弱、上から見ると、椅子が美しく並んでいる様子がよくわかりますね。
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⑤ステージ袖から。ここから出演者を送り出しているんですね。
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