マーラー
交響曲第5番

第4楽章“アダージェット”がヴィスコンティの映画「ベニス に死す」で使われたことでも知られている作品。マーラーの作品の魅力はとてつもないスケールの大きさ、時には狂気を感じながらも旋律の美しさには身を委ねたくなります。とりわけこの第 5 番は、マーラーの生涯で最も幸せだった時期に書かれていて、全体を通して彼の人生を見るような感情の深く激しい変化を感じますが、その中でも弦楽器とハープで紡がれる“アダー ジェット”は、妻アルマへの溢れるような愛情に満ちていて、演奏する度にいつも幸せを感じます。

ブラームス
交響曲 第2番

ブラームス44歳の時の作品です。20年という長い歳月をかけた第1番に比べ、第2番はわずか4か月で作曲しました。また、ニ長調という調性のためか、とても明るく伸びやかです。
ブラームスは、交響曲の中でチェロ・パートに美しいメロディーを沢山書いていますが、この曲の第2楽章冒頭は特に素晴らしく、チェロ奏者で良かったと思える瞬間です。

ラフマニノフ
交響曲 第2番

ロマンティックな詩情が溢れる、ラフマニノフの最高傑作の一つです。1時間程かかる長大な交響曲なので、作曲された当初は広く聴衆に受け入れられるよう、短縮版で演奏されていたこともありました。
この曲の第3楽章のアダージョの甘美なメロディーは、私には胸が苦しくなるほど甘く切なく感じます。
1時間聴くのは大変！と思われる方は、最初はこの曲の中核部である3楽章から聴いて頂き、その後に是非全曲通して壮大でロマンティックなドラマを味わって頂ければと思います。

ワーグナー
楽劇《ニュルンベルクのマイスタージンガー》 より 〈第1幕への前奏曲〉

オペラ《ニュルンベルクのマイスタージンガー》のハイライトが凝縮されている曲で、楽劇全体（約5時間！）をたったの10分で楽しむ事ができます。16世紀中頃のドイツのニュルンベルクを舞台とした作品で、1867年に完成しました。
マイスタージンガーとはすなわち親方歌手。青年騎士、金細工師、書士官等様々な仕事をしながら歌に自信を持つ強者が、歌手の王者を決めるためニュルンベルクの中心部へ集まってきます。日本でいうところの、のど自慢でしょうか！
物語の中で登場するマイスタージンガー達の喜び、葛藤、悲しみ等全ての感情がこめられている前奏曲は、優しく、時には荒々しく、儚く、優雅です。
オーケストラ全ての楽器が、オペラのクライマックスではソリストになったかのような気分。僕のお気に入りです。

プロコフィエフ
子供のための音楽物語《ピーターと狼》

子供の頃、両親が買ってくれたレコードの中で特に聞いていたのが《ピーターと狼》（子供のための朗読付き音楽物語）です。語りは女優の栗原小巻、オーケストラはどこだったかな？
この作品は、プロコフィエフ自身がロシア民話を基に台本も書いたもので、登場人物（ピーターや動物たちなど）は各楽器が受け持ち、プロコフィエフ特有の旋律や和声感が絶妙に表現されています。
日本の俳優をはじめ世界的有名俳優や指揮者の個性的な「語り」が数多く録音されています。通常、指揮者は「音」を出さないけれど「語りなら！」と挑戦する人がおり、実は、私も5役（セリフのある登場人物・動物）をやってみたいと思っているのだけれど・・・。
アニメやゲーム音楽ではなく、このような子供も大人も親しめる曲がもっと演奏会で聴けたら、「クラシックやオーケストラ好き♡」な人がもっと増えるのでは？と思います。
※日本フィルも「ピーターと狼」CDをリリースしています。

R.シュトラウス
アルプス交響曲

演奏家にとって好きな曲を1曲選ぶことはとても難しいことですが、いつも私の心にあるのは、R.シュトラウスの《アルペン交響曲》です。
この曲は山頂までの旅路として描かれ、朝日が昇るところから始まり、渓谷や氷河を越え、嵐に出会います。
ホームシックになった時によくこの曲を聴き、故郷に近いイタリアのドロミーティ・フリウラーネにハイキングに行った時の、大事な友人との楽しかった時間、森の香り、山頂の山小屋での寒い夜を思い出していました。手つかずの自然、野生の動物が私たちの周りをうろついていた夜。
どうやってこの様子のすべてを音楽にすることが出来たのでしょう。でもシュトラウスのスコアからアルプスが見えるのです。本当に傑作です。
特に好きなのは、冒頭のトロンボーンの和音です。山頂途中の山小屋で朝目覚める時、暗闇から徐々に朝日に照らされ山の輪郭が浮かび上がり、あっという間に日が昇り、雄大な山脈が姿を現します。

ドビュッシー
交響詩《海》－3つの交響的スケッチ

ドビュッシーは幼い頃から大好きな作曲家の1人でした。
この曲を初めてオーケストラで演奏した時、太陽の光がキラキラと反射する海の様子が目の前に浮かぶような曲だったので、とても感激したのを覚えています。
オーケストラの全ての楽器が生き生きとしていてとても美しい曲です。
ドビュッシーが活躍した頃のフランスではジャポニズムが知られるようになっていた時代で、当時の《海》のスコアの表紙には葛飾北斎の”海”の浮世絵が使われたことも有名です。
3つの楽章には副題（「海の夜明けから真昼まで」「波の戯れ」「風と海との対話」）がつけられていて、それぞれ描写が素晴らしく、聴きどころは全部と言いたいところですが、1楽章が始まってしばらくするとチェロ・パートのみの色鮮やかでメリハリのある見せ場があるので、ぜひ注目していただきたいです。

ラヴェル
「ラ・ヴァルス」

フランス語のラ・ヴァルスは英語ではワルツを意味します。古き良き時代のウィーンのウィンナーワルツを舞台としていますが、スコアの冒頭には「渦を巻いている雲の切れ間からからワルツを踊っているカップルが見え隠れする」とあります。三拍子の単純なワルツかと思いきや、テンポの激しい変化の連続と、ワルツの境界線の曖昧なまま曲が進み独特の緊張感の中で破滅に向かうような終止。ラヴェルのオーケストレーションの天才的な素晴らしさが際立つ1曲で聴き手を文句無く引き込む作品だと思います。

ラヴェル
ピアノ協奏曲

私がまだプロのオーケストラで弾かせていただくようになったばかりの頃、この作品を演奏する機会がありました。第二楽章は２分以上もあるピアノの独奏で始まるのですが、それがあまりに美しく、自分のパートを出忘れるというハプニングがあったほど(幸いゲネプロでした)。時々無性にこの音楽の感覚が恋しくなって、自分でゆっくり弾いてみてはそのハーモニーをひとつひとつ噛み締めながら恍惚とすることも...(笑)「管弦楽の魔術師」と称されるラヴェルらしい華やかなオーケストレーションで、色々な楽器が大活躍、お洒落な仕掛けもふんだんに散りばめられていて、魅力満載の作品です！

J.シュトラウス２世
喜歌劇《こうもり》序曲

子供の頃、あの有名なアメリカのネコとネズミの某アニメにこの曲が使われており、とても気に入りました。《こうもり》というオペレッタの序曲だということを知り、家にあったCDを寝る時によく流して聴いていました。それから10年以上経ち、日本フィルに入団して初めてこの曲を演奏した時にはとても感激したことをよく覚えています。 オペレッタの序曲ということもあり、様々な場面が音楽で表現されていて、物語を想像しながら聴くのがとても楽しいです。中間部にはオーボエの切なく美しいソロがあるのも聴きどころです。 《こうもり》には〈ポルカ:雷鳴と電光〉や、〈公爵様、あなたのようなお方は〉など他にも沢山の名曲があるので是非全曲お聴きになってみてください！