杜のホールはしもと

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【公 演】竹澤恭子さん&江口玲さんよりメッセージ

2020.07.15

10/31(土)に開催される「竹澤恭子ヴァイオリン・リサイタル」のご出演のお二人から、メッセージをお寄せいただきました。
お二人の視点から今回の演奏曲がどのような作品なのか各々語ってくださいましたので、ぜひお読みください。

~竹澤恭子さんよりメッセージ~

『公演への抱負』
杜のホールはしもとでのリサイタルは、私にとりまして初公演になりますが、4年前に相模原のお客様には相模女子大学グリーンホールにてトリオのコンサートを演奏させていただいておりまして、再びリサイタルにて演奏させていただきますことを嬉しく思っております。
この度のプログラムは、長年デュオ・パートナーとして共演させていただいています素晴らしいピアニストの江口玲さんと共に、ベートーヴェン生誕250年記念に因んでの<オール・ベートーヴェン・プログラム>に挑みます。
ベートーヴェンという大作曲家は、数々の偉大な作品をこの世に送り出し、革新的な作曲手法を生み出し、数多くの作曲家にも影響も与え、250年たった今も、世界中の人々に深い感動を与え続けています。それゆえ、ベートーヴェンの「第九」は毎年途絶えることなく演奏され、人々に生きる喜びを、勇気を、エネルギーを与え続けています。
今、世界はコロナウイルスに翻弄され、たくさんの尊い命が奪われ、当たり前のことが当たり前では無くなり、生きていくことの厳しさを感じさせられる毎日です。このような日々の中、私自身も音楽によって生きているということを実感し、どれほど慰められ、勇気づけられ、生きていく力を与えられたかわかりません。
この度のリサイタルでは、ベートーヴェンの音楽を通し、命の尊さを実感できるような空間を皆様と分かち合えることができたらと思っております。

『プログラムの魅力』
13年前に、ベートーヴェンソナタ全曲プログラムをピアニストの江口玲さんと共に取り組みましたが、全曲を弾くことで、ベートーヴェンの初期から中期にかけての作品の変遷を体感することができました。
今回は、その中の代表作で、特に彼の音楽の魅力を感じることのできる《第5番》、《第7番》、《第9番》をピックアップしました。穏やかで流麗、時にウイットに富んだ軽やかな《スプリング・ソナタ(第9番)》。全ソナタの中でも数少ない短調、かつ名曲を生んでいるハ短調で書かれた《第7番》のソナタ。この調から生み出される固有の緊張感のある音楽は、後の《クロイツェル・ソナタ(第9番)》にも通ずるものがありますが、彼の奥底にみなぎる燃えるような音楽エネルギーを感じます。《クロイツェル・ソナタ》は全ソナタの中でも大作ですが、初期のソナタとは異なり、ヴァイオリンとピアノの両者が対等に、大宇宙を感じさせるようなスケールの音楽をヴィルトュオーゾ・スタイルで戦わせるかのように描いていきます。
再び共演させていただきます江口さんは、長年の友人でもあり、音楽パートナーでもあり、尊敬する素晴らしいアーティストでありますが、10数年間たった今、再び共にベートーヴェンに取り組む事によってどんな発見があるか、とても楽しみしております。
このようなベートーヴェンの魅力が凝縮されています3つのソナタを、皆様に存分に味わっていただけましたらと思います。

 

~江口 玲さんよりメッセージ~

ベートーヴェンが書いた『ヴァイオリン・ソナタ』の中で人気のあるものといえば、今回演奏されるこの3曲が筆頭です。
ベートーヴェンは神がかった感性を持つ作曲家ではありましたが、メロディーを書く才能については疑問符をつけられることもあります。例えば、《第5番「春」》の冒頭の美しいメロディー。完成形にたどり着くまでの試行錯誤がスケッチとして残っています。最初の形を見ますと、「え?これが本当にあの楽聖と呼ばれるベートーヴェンが書いたもの?」とびっくりするほどに単純なものだったのです。完成形に辿り着くまでの凄まじい執念を考えると、全ての音、記号に意味があり、無駄なものが一切存在しないと言うことがわかります。
私たち演奏家はそれらの記号(音符を含めて)に込められた意味を、そしてその意図を想像し、それを自分たちの言葉で再現するのが使命だと思っています。
皆様もそう言う耳で聴いてみてください。
新しい何かが見えるかも?