杜のホールはしもと

文字サイズ

hall topics

【公 演】江口 玲さんインタビュー vol.1〔アンサンブルの極意〕

2020.09.27

――ソロに限らずアンサンブル奏者としてもご活躍ですが、取り組みの中で具体的な違いがありましたらお聞かせください。
 自分自身には何の違いもありませんが、ソロとアンサンブルではアプローチが異なります。ソロの場合は、あくまで自分の責任の中で演奏します。一方、アンサンブルの場合は、ユニットとして相手と自分とで一つの形を作らなければなりません。
 例えば、リハーサルをする場合、竹澤さんとは付き合いが長いので彼女がどのように演奏するのかを予想できますが、初対面の方の場合は、演奏曲に対して相手がどのように考えているのか全くわからない状態でアンサンブルを始めなければなりません。ですから、音楽を作る中では、自分の考えを持ちつつも、相手がこうきたらこれが出来るな、そうやるのだったらこうやろう等、できる限り柔軟に対応可能な状態にしています。根本的なところでは、テンポ感が全く異なることもあります。そのような場合は、お互いに歩み寄ったり、どちらかが合わせることもあります。いろいろと試してみて、2人が演奏するにはこれが一番良いという着地点を即座に見つけられるような柔軟さを準備するように心掛けています。

――初対面の方とアンサンブルをする際、柔軟さを持つ以外に予め準備しておくことはありますか?
 相手からどのようなアプローチがあっても、自分のやりたい音楽を主張できるようにしておくことです。本当にこれに尽きると思います。それは決して対立するわけでなくて、合わさって一つのものができるようにということです。

――アンサンブルをする際のコツや気を付けていらっしゃることはありますか?
 例えば、リハーサルを重ねても全く同じように演奏する本番は非常に稀です。リハーサルというのは、大まかなあらすじを2人で確認しておいて、ポイントごとの取り決めをするのが主です。ですから、本番では即興的に演奏されることが少なくありません。また、その即興的なやり取りがデュオの一番の楽しさでもあります。そのため、即興的な演奏(箇所)がいつあっても良いように、全神経を使ってアンテナを張っている感じです。

――これまで演奏中に驚いたような経験はありますか?
 しょっちゅうですね(笑)。ない時の方が珍しいかもしれません。

――どのような際に驚かれますか?
 もちろん突発的な事故には驚きます。
 また、ツアーでは様々なホールで同じプログラムを演奏しますが、本番になると毎回のように、楽譜の中にこれまで見えずにいたものが突如として見えることがあります。「なるほど!だからこのように書いてあるのか!」と、楽譜に書かれた音符や音楽の意味合いを理解する感覚です。そうして、わかった内容を突然その場で試してみると、相手ももちろん驚きますね。そうくるの?と(笑)。しかし、このような投げかけをすると、相手の楽譜にも同じようなメロディがあった時に「本当だ!私の楽譜に書いてある音符もそのような意味だったかもしれない!」と、納得して返してもらえることがあります。

――まさに音楽の対話ですね。
 そうですね、本番でこのようなやり取りを楽しむことがとても好きです。もちろん楽しむ余裕があればですが(笑)

――同じプログラムでも、日にちが異なればまた変わったアプローチの演奏が聴けるということでしょうか。
 根本的なところで音楽がガラリと変わることはありません。例えば、何年か間を空けた後に同じ方と演奏をする時、その間、お互いが異なる相手と同じ作品を演奏していた場合があります。そうすると、これまでとは違ったインスピレーションを双方で持ち寄るので、演奏を合わせた時に以前とは全く違う印象(の音楽/演奏)だなと思うことがあります。

協力/KAJIMOTO
取材日/2020年9月15日(火)
(c)公益財団法人相模原市民文化財団